イチロー

その波は、静かに沸き起こり、やがて大きなうねりとなって、球場全体を包んでいった。
8月15日、イチローが日米通算ながら4192安打を記録し、タイ・カッブの通算安打4191安打(歴代2位)を更新すると、スコアボードに記録のことが紹介されたわけでもないのに、敵地セントルイスのファンは、それを称えたのである。米記者らに意見を聞いた。
まず、記録の位置づけだが、「公式な記録と捉えられることはない」と全員が明言した。
ニューヨーク・デイリーニュース紙のアンソニー・マッキャロン記者はこう言っている。
「ファンは、イチローがローズに並び、超えることになれば興味を持つだろう。しかし、あくまでも参考であって、公式記録と考える人はいない」
ESPN.COMのジム・ケイプル記者も、「注目すべき数字ではある」と断った上で、「全く、気にしない人もいる」と続けた。
予想された反応だが、その理由ー。多くは、レベルの問題を挙げている。
「大リーグに比べたら、日本のレベルは低い。それは事実だ」と元MLB.COMマリナーズ番記者のジム・ストリート記者。シアトル・タイムズ紙でかつてマ リナーズの番記者を務めていたジェフ・ベイカー記者も、「多くの人は、日本のレベルはメジャーとトリプルAの間だと考えている」と指摘した。
元シアトル・ポストインテリジェンサー紙のコラムニストで、現在は「スポーツプレス・ノースウエスト」の主筆を務めるアート・シール記者も、「日本と大リーグのレベルは違う」と話す。
「欧州PGAツアーの勝利が、米PGAツアーでの勝利ほど高く評価されないのと同じような考え方が、根底にあるのではないか」
日本のプロ野球のレベルが、メジャーとトリプルAの間、という捉え方はたびたび耳にし、その捉え方は想定内でもあるが、レベルに関しては興味深い見方もあった。